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001. 夕立に混じる(アヴドゥル)
「これは、止むまで掛かりそうだな」
「傘を持ってきて正解でしたねこれは」
 日本から持ってきた折りたたみ傘が、ばつばつばつばつ、と雨粒にぶつかられてけたたましく鳴っている。
 女性用のパステルブルーのそれは二人分までは許容できなくて、私の右肩とアヴドゥルさんの左肩はあっという間に重たくなってしまった。いや、アヴドゥルさんはかろうじて傾けた頭と右肩以外の色が濃くなっている。
「もっとこっち寄って良いんですよ」
「何を言う。十分だ」
「……じゃあ、私が寄ろうかな」
 ばらり、ばつばつばつ。
 私がずいっと傘を持つ大きな手、太い腕に寄り添うように近づいてみると、音が一瞬だけ変わった。
「照れ屋だなあ」
「聞こえているぞ」
「わあ地獄耳!」
 でも、今なら、と呟いてみた私の想いは予想通り届かなかったらしい。ばつばつばつばつ。ホテルに戻るまで、傘は規則正しくやかましい音を立てていた。あと何日か。この旅が終わるきっと晴れたその日に、もう一度口に出してみたい。



002. 初恋(花京院)
 ”初恋はいつか”。
 つかぬことを聞くけれど、と大仰な前置きをされて何かと身構えれば、まさかの恋バナだった。ポルナレフならわかるけれど、花京院くんが? 珍しい、と思ったけれど彼はいつもの聡明な真顔でこちらを見ている。
 なので私は少し考えて、素直に「幼稚園の時の……なんとかくん」と答えた。
 「……なんだいそれ」花京院くんは驚いたような呆れたような顔をしている。
 名前も顔もすっかり忘れてしまったけれど、折り紙を折るのが上手な男の子だったことだけは覚えている。不器用な私がうまくできずにくしゃくしゃの折り紙たちを前に泣きそうになっていると、お花の形に折られたそれらを「いらないから、ぼくは、だから、あげる!」と乱暴に渡された。今思うとあのふっきらぼうな言動も照れ隠しだったのだろう。その3つのお花は幼い私に初めてのときめきを教えてくれたのだった。
「……現金だな」
「ちがっ……初めての花束だもん。これでも女の子だもん、仕方ないじゃない」
 花京院くんがおもむろに手を口元に当てて、じっくりとその口から出てきた感想につい唇を尖らせて子供らしく憤慨してしまう。
「じゃあ、花京院くんはどうなの……初恋!」
 私の思い出を茶化すくらいなんだから、さぞかし素晴らしい話が聞けるのだろう。そう思っていると、「わっ!?」にゅっと彼のスタンドの触手が目の前に現れた。
「な、なに!?」
「君のエピソードと被って、非常に癪なんだが……」
 花京院くんはなにやら話題にそぐわぬ苦々しげな表情をしている。よく見ると、触手の先端には何かが握られていて、急かすように私の手にそれを押し付けてきた。

 それは、3本の薔薇の花束だった。
 
(薔薇3本の意味:愛しています、告白)


あとがき
お題:capriccio様「365」よりお借りしました。 (211027)


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