……言わなくてはならない。
 呆けた顔で、俺の胸に、この腕の中に、収まるクラスメイトに。
 自分の気持ちと、この愚行を。
 鈍い音を立てて地面に落ちたじょうろが、水たまりと、俺自信の焦燥を、じわじわと広げていく。ずるずると腕が落ちる。洗脳なんてもんを掛けた側は俺だって言うのに、頭も体も、まともに動いてはくれない。
 やってしまった、衝動的に。
 というやつは、俺なんかに事あるごとによく話しかけ、その時に見せる溌剌とした笑顔がかわいくて、それはこいつにとても似合っていて、それでなんとなく気にはなっていた。ああ、そういや、別に係とか園芸部とかでもないのに、花壇で水をあげたりゴミを拾ったりしているのも知っていたし、そんなところもいいやつだな、と思ってもいた。
 それが、普通科では人気のあるらしいなんとかさんという先輩に告白されたとかいう噂を聞いた途端、足がいつも窓から見る花壇まで動いてしまった。は目をまんまるにして、それから俺のバカみたいな、そんなことただのクラスメイトの俺が聞いてどうするんだっていうような問いかけに、応えた。
「うん、まあ、ね」
 歯切れの悪い、でもどこか嬉しそうな、照れくさそうな表情を見て、"個性"のスイッチが入ってしまった。高校生にもなって"個性"の自律もできないなんて、周りからこの個性を揶揄され危険人物と思われても仕方がない。
 なんと言い訳をしても、"個性"を悪用して、あろうことかどう見ても痴漢行為を働いてしまったのは言い逃れようもなく事実だ。
 チクショウ、と悪態が口から溢れた。ああ、ヒーロー科のやつらならこんなことはしな……いや、数名やりそうな奴らはいるな。いやいや、それは免罪符にもならない。
 しかしどう言ったものか。未だぼんやり立っている想い人に背を向けて、後ろ頭をかきながらただただ唸るしかなかった。

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 ……言わなくてはならない。
 ひどくうなだれ、水浸しの花壇の縁に腰掛ける青い後頭部に。
 私の"個性"は皆に教えているものだけではなく、実はもう一つ、"精神防御"なんて類のものも遺伝していることを(普段目に見えるのは母の個性で、こっちは父の個性だ)。精神干渉系の"個性"持ちなんてそうお目にかかることはなかったし、いても人を楽しくさせるとか悲しくさせる"個性"くらいだったし、まさか洗脳なんて聞くからに強そうなものにまで効くなんて思ってなかったし、そんなこんなで今までの人生において間違いなく死に"個性"すぎて、自分ですら忘れていたんだけれども。
 それともうひとつ言わなくてはならないことがある。私も貴方と同じ気持ちでだってこと。
 流石に抱きつかれると思わなくて驚いて固まってしまったが、ずっと気になっていた男の子に話しかけられて、しかもその言葉が、まるで嫉妬してくれてるみたいで……嬉しかった、って。


あとがき
WJで心操くんが再登場した時に嬉しすぎて書きなぐったやつです。 (180820)


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