面倒臭いことになりそうだなあ。
 目の前で不機嫌に仁王立ちの黄色い機体に、純粋にそう思った。
 一緒にゲームセンターで遊んでいた時はあんなにウキウキだったのに。帰りの道中だんだんと口数が減っていったと思えば、基地についた途端にこれだ。わけがわからない。UFOキャッチャーで取って貰った、人気の黄色い電気ネズミのぬいぐるみを抱える手に力が入る。
「……そんなにそれ好きなワケ?」
「いや、まあ、人並みには」
 変なバンブルビー。私とサリと一緒にコレが出るゲームもやったから、コレの人気だって知ってるだろうに。まあ私も特別このネズミが好きというわけでもないけど、かといってこのぬいぐるみを貰って喜ばない人もそうはいないんじゃないかなあ。
「えー、そんなものより僕のほうが良いよ!色だって同じだしホラ電気だって出せる!それに加えて君とおしゃべりできるし一緒に遊べる!ドライブだってできるよ!」
「わっ!?」
 悲鳴が出たけど、目の前でエナジースティンガーをいきなりバチバチさせて、そう一気に捲し立てられたら誰だってびっくりすると思う。不信感丸出しで見る私の目線をものともせず、バンブルビーは勝ち誇った顔で私の抱えるネズミをつまみ上げた。
「それにコレと違って、僕なら君を護れる。頼もしいでしょ!ね、どう考えたって僕のほうが良くない!?」
「あっうんそうだね」
 私の棒読み返事でもバンブルビーは満足そうに頷き、ぬいぐるみをソファに放り投げて廊下に出ていった。
 ……はあ、地球の技術からしたらオーバー・テクノロジーのハイテクロボット宇宙人が、ぬいぐるみ相手になにをあんなムキになってるんだろ。



「何を悩んでいるである」
 ソファに腰掛け呆けたバンブルビーを見かけ、通りがかりのプロールは声を掛けた。訓練帰りのオイル摂取を早くしたかったので無視をしても良かったが、ゲームをやるわけでもなくただコントローラーのコードをもたもたと指で弄ぶだけのバンブルビーというおかしな光景を見かけ、見て見ぬふりもできず心配をしたのだった。
「僕さあ、思ったんだよ」
 くるくるとねじれたコードの寄りを戻しながら、バンブルビーは口を開いた。
「僕が小さかったら、は僕のことカワイイって抱きしめて一緒に寝てくれるんじゃないかなーって。あのぬいぐるみみたいに。」
 お前はすでに我々の中で最も小さいである、とぱっと頭をよぎった言葉を口にだすほどプロールは軽率ではなかった。そんなことを言えばきっとやかましさに手を付けられなくなるだろう。それに、あのぬいぐるみ……恐らく数日前にが腕に抱いていた黄色の布地の物体のことだろうが、確かにバンブルビーがトランスフォーマーの中では小型とはいえ、人間の中で大柄でもない彼女が彼を腕に抱き込むことは困難だろう、とも容易に考えは至った。
 プロールが本心を抑えて適当に相槌を打っていると、バンブルビーの口の滑りが良くなっていった。
「でもさあ、僕どっちかって言うとのこと抱きしめてあげたいわけじゃん?いやまあ抱きしめられるのも憧れちゃうナーって思うけど!それになによりカワイイよりは格好良いって言われたいわけじゃん!?ねえどう思うよちょっと聞いてるのどうしたらいいかなプロールぅー!!」
「知らんがなである」
 付き合いきれない。プロールは恐らく意味もなくずっと点いていたテレビの電源を落とし、喚く黄色を残して部屋を後にした。



 なんて嫌がらせなのこれ。
 揺れる黄色に香ばしい焦げ茶……私の手には食べかけのプリンがあった。フランスかどこかの有名なお店がここいらで初出店とかなんとか聞いて、決死の思いで手に入れた至高の品物だ。サリの分もと思って2つもぎ取ってきたけれど、彼女はサムダックさんの手伝いをするので今日は来られないそうだ。そのメールに気がついたのは基地についてからだったので、1つを冷蔵庫に入れて、そしてつい先程1つをうきうきと食べ始めたところだった。
 私はスプーンを下ろし、隣に座る黄色い機体に声を掛けた。
「……ねえバンブルビー」
 名前を呼んでも、彼は呆けたままだ。この時間にやってるバラエティは彼のお気に入りの番組のはずなのに、彼の顔はテレビから大きく逸れていて、その青い目は私の顔より下をぼんやりと眺めているように見えた。
「バンブルビー!」
 少し強めに声を出してようやく彼は我に返ったようにびくりと肩を揺らした。
「なにどしたの?」
「どうしたじゃないよ、そう睨まれてると食べづらいんだけど」
「睨んでないよ!」
「なにバンブルビー、プリン食べたいの?……ていうか、貴方達って食べられるの?」
「違うし!」
 彼の表情は豊かだと思う。今も目を三角にして分かりやすく怒りを表した。ただ、何故彼がそんなにムッとしているのかは、分からない。むしろ楽しみを邪魔されて私がムッとしたいくらいなんだけれど。
「バンブルビーわけわかんない」
「僕だって分かんないよ」
「なにそれ」
「知らないよ!」
 ぷんすかそう言うと、彼はふてくされたようにふいっとテレビを睨み始めた。
 テレビはつまらないニュースに変わっていて、彼の機嫌を直すのにはなかなかに時間がかかりそうだと思いながら私は黄色いソレを口に運んだ。


(150617)


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