空気が重い。というより、痛い。ぴりぴりした雰囲気ってまさにこんな感じだと思う。私は消毒液を置き、上方を盗み見た。

「まったく、信じられない!」

 そこには、赤い色をした巨大なロボット……のような宇宙人が眉間を狭め、わかりやすく怒っていた。メディックノックアウトは、私を見るなり怒鳴りつけてからずっと私を注視したままだ。私の体ほどもありそうな大きな目でこうも睨まれ続けると、本当に体に穴が開きそうだ。

「こんな……こんな傷をそのままにしていたなんて何を考えているんだ!?」

 スタースクリームの手伝いも終わったしよーしメディックノックアウトでも手伝うか、とやる気を出して腕まくりをしたのが間違いだった。
 メディックノックアウトはぶつぶつと私に小言を落とし続けていた。

「貴方、女性でしょう!」
「ん、まあ、そう、だね」
「返事はいいですから手当を続けてくださいよ。」

 傷の洗浄と消毒は済んだから、あとはガーゼを当てて包帯を巻くだけだしもうそこまで怒らなくても、と思うけれどそんな口答えをしたら面倒になることは痛いほどわかっていたので大人しく口をつぐんだ。数分前に「大体、そんなに怒るならメディックである貴方が手当をすれば良いのに」と人間用の救急箱を開きながらそう言ったら「私にそんなちまちました作業をしろと?」などと返された時点で、私はもう色々と諦めている。

「それにしてもスタースクリームにも困ったものだ、うっかりにしろこれを傷付けるなんて、ああまったく……」

 怪我はそんなに大したことはなく、金属片で腕に切り傷を作っただけのことだ。確かにスパッとはいったけれど、腕の表面で非常に浅く血もすぐに止まる程度のものだった。だからこそ、私にはメディックノックアウトがここまで神経質に私を怒る理由が分からない。

「お医者せんせ、人間は気持ち悪いって言ってたじゃん」
「確かに、液体でぶよぶよで気味が悪い。が!」

 メディックノックアウトが勢い良くその鋭利な指で私を指した。私が先端恐怖症なら気絶してる。

「継ぎ目のないモノに傷が入るのは我慢ならないんですよ……特に、貴方にはね」
「そ、そう……」

 言葉をどういう意味で捉えたら良いか分からず、とりあえず無心で包帯を巻くことにした。……医者の目の前で患者がもくもくと治療するって改めて考えてもシュールだ。
 そうして治療を終え救急箱に物を片していると、メディックノックアウトは私の側に転がっていたタオルをつまみ上げた。慌てて声を上げる。

「あ、それ血が付いてて汚いよ!」
「そうですねえ……ヒトの身体に褒めるところがあるとしたら、"血液"とやらが赤色をしているというところですねえ……」

 そう考えたら貴方が怪我をすることに寛容になれそうだ。そう言ってタオルを落とすメディックノックアウトの表情はぞっとするほど楽しそうで、私はひらひらと舞うタオルを目で追いながら……とにかく今後切り傷だけは作るまいと心に固く誓ったのだった。


(151208)


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