Xのnovelmber 6. もうすぐ


「そんじゃあ、行くぜ」
 俺の指がカードの縁に触れる。いつでもどうぞ、なんては気取った言い方で手を振るが、その声がいつもより固いことに自分では気付いてねえんだろう。俺ほどの百戦錬磨のギャンブラーなら、この程度気付くのは簡単だ。他ならねえの声だし。

 捲った札が赤なら俺の勝ち、黒ならの勝ち。勝った方が負けた方の言うことをなんでも聞く。

 キッカケはもう忘れちまったが、何かの話がヒートアップして始まった一発勝負。カードとテーブルの隙間に、親指の爪を差し込む。そこで手を止めて、ごくり……なんてわざとらしく息を呑んで焦らしてみせれば、のポーカーフェイスはもうガラガラと崩れ去り身を乗り出してカードを見つめていた。

 ひとつ、が勘違いしていることがある。

 この勝負、は負けた方が地獄を見ると思ってるみてーだが、そんなことはない。俺の方は、勝っても負けても万々歳で終わることが分かってねえ。
 なんせ、元々が乱数や幻太郎と一緒にどんな我儘を言おうとちゃんと聞いてやってるからな、もちろん金くれ以外の内容だけど。それこそ3回回ってワンから始まり、映画の真似をしたいからお姫様抱っことやらをしろだの一人一個の限定スイーツを買うから一緒に並んでくれだの……今更この程度の我儘がもう一個なにか増えようと屁でもねえ。
 そもそもの話、俺はのことはスゲーかわいいやつだと思ってるし、「ありがとう帝統!」って俺の名前を呼ぶ声も笑顔も、腹こそ膨れねーが気分はアガる。こいつはスゲーお人好しだから、勝者の権利としてどんな命令をしてこようと最後は絶対俺に笑って礼を言うハズだ。
 切った張ったのヒリついた勝負こそ、本来俺のメシよりも何よりも好きなもんだ。ただ、初めから勝っているこの勝負をわざわざ降りるという択も今は無え。さっきから負ける話ばっかしちまったが、勝ったら勝ったでが俺の言うことをなんでも聞いてくれるんだからな!

 カードが翻るまで、もうすぐ。


(20231130)

よかったなあとかあればポチッと→ ❤❤❤