Xのnovelmber 8. 拒絶


「あのさ、銃兎」
「はい?」
 喜色を滲ませた顔で、私の耳たぶをつまんだままの銃兎が首を傾げる。目線は、その瞳と同じ色をした小ぶりな石に注がれているんだろう。
 銃兎が選び銃兎が私に取り付けたそれはよほど銃兎のお気に召したらしく、ベッドに腰掛けて他愛の無いお喋りに興じている間、私の耳たぶは彼の指で満足げに撫でられ続けていた。
「こういうの、もう大丈夫なんだけど……」
「要領を得ませんね。何がどう大丈夫なんです?」
「その、アクセサリーとか、服とか……会う度にくれるでしょ」
 ほとんど毎回、銃兎は会う度に私に物を寄越してくる。ブランドも、デザインも、そしてきっとお値段も相当に良い物を、だ。
 恋人であるとは言え、やりすぎだと思う。流石に気が引けてしまうし、私は別にこういうものを目当てに銃兎といることにしたわけではないのだ。
 そんなことを伝えるとようやく銃兎が「あぁ」と納得したような声を上げたから、私は安堵の息を吐いた。
「ダメです。やめません」
「ええ……」
「これは私がやりたいからやっているんですよ。あなたが気負う必要はありません」
 そうは言うけれど! 頭も口も私よりずっと回る男相手にどう説得したものかと悩んでいると、銃兎の指が私の鎖骨にそっと触れた。
「さて、私もずっと気になっていたんですが。こちら──」
 温度の下がった緑色が、首にぶら下がるそれをじっと見下ろしている。
「──初めて見る物ですね」
 銃兎の指がチェーンを伝って私の頸をそっと撫でたかと思うと、ぷつり、いとも簡単に外されてしまった。……きっと次のプレゼントはこれとよく似た、けれど銃兎が選りすぐったネックレスになるんだろうなぁ。
 私はベッドサイドに並べられた銃兎お気に入りの眼鏡フレームたちを眺めながら、改めて銃兎の手が銃兎のくれた物をひとつひとつ取り外していくままに身を預けた。


(20231130)

よかったなあとかあればポチッと→ ❤❤❤