応援で地方へやって来たけれど、担当者の手違いで時間潰しが必要になってしまった。借りた覆面パトカーで適当にうろついてしばらくすると、助手席の入間さんが気になる所があるとナビを入れた。
地名を冠した郷土資料館の受付で、入間さんが慣れたようにチケットを買う。外観だけを見ると明日にも閉館していそうなほど寂れた建物だったが、中は手入れが行き届き、展示品も所狭しとしながらも整然と並べられていた。
「意外だなあ、といつも思います」
「何がです?」
絵画、巻物、刀剣、彫刻、陶器……種類はあれどこぢんまりとした建物では、思ったより時間を潰せずに2周目も回り終えてしまった。3周目を回るか休むか考えていると、入ってすぐ別れた入間さんがとある一角で口元に手をやっている姿を見つけた。
「入間さんって、なんかこういうものに興味無さそうじゃないですか。古いものや絵なんて無駄だーとか言いそうで」
どんな印象だ、とため息が返ってくる。まあ、この人がそんな感性しか持ち合わせていなかったなら、あのマイクは無用の長物となっていたに違いない。
「歴史ある物がこうして残っているというのは、それだけで尊いものでしょう。なにせ過去になくしてしまったものは、2度と戻らない」
興味深そうに展示ケースを見下ろす入間さんの隣に立ち、覗き込んでみればそこには主に陶芸品が並んでいた。そこにある陶器は一つ一つ、全てに金色の線が走っており、表面に複雑な模様が描かれているものだった。
「これは金継ぎ、ですか」
「この辺は陶芸が盛んだからな。一緒に発展してきた技術だろう」
近くの説明パネルに改めて目を通すと、このコーナーに飾られているのは先の大戦で壊れたものの修復品たちらしかった。
再度陶器に目を戻す時、入間さんがそっと目を細めるのが視界の端に見えた。
「一度壊れたからこそ、骨董の重みを持ちながらも新しい価値を得る物もある」
「そうですね」
これは私がヨコハマに来る前に調べた人物像、そして私が今まで散々こき使われつつ過ごした中から、というだけの勝手な印象だが……まるで、この人みたいだ。
「だから、俺はお前のことを買っているんだ」
目を見開いて隣を見上げたが、その横顔は何事もなく依然穏やかに展示品を見下ろしているだけだった。
「あー……では、私はこれからも入間さんのコレクションに相応しい価値を示さないといけませんね」
「ええ、期待していますよ。さて、そろそろ戻りますか……面倒な応援業務に」
そう言い残して歩き出す入間さんのカラーピンは、照明を反射して金に光っていた。
あとがき
ARBのホームボイス好き(write241102)
よかったなあとかあればポチッと→ ❤❤❤