Xのnovelmber 16. 真似る


「買ったんじゃなかったのか」
 入間さんの奢ってくれた缶コーヒーで両手を温めては片手ずつタブレットを操作していると、その上司が喫煙の合間にぼそりと問いを口にした。なんの話かと顔を上げると、入間さんは煙草を持っていない方の指で自身の赤色の手を指差した。
「手袋」
 ああ、と合点を返す。最近急に寒くなってきたのでちょっと良い手袋をネット通販で頼んだ話を先日したような気がする。その時はただ時間潰しに口にしただけで、入間さんも「へぇ」くらいで終わった会話をよく覚えているものだ。
 まだ届いていないのかと問われれば、届きはしましたと返す他ない。
「ですが、ちょっと……私には使えない物だったんです」
「お前には? 見た瞬間に気に入って買った、んだろう?」
 ……本当によく覚えている。入間さんと雑談することはそう多くはないけれど、話の内容には今後より一層気をつけようと思う。どこでなんの揚げ足を取られるかわかったものじゃない。
 はあまあ色々と、と話を流すつもりで呟いたが、入間さんの口からはフゥーー……ッ、と太く長くキレの良い煙が吐き出された。これは、入間さんが威圧する時のやつだ。良いから話せと、暇潰しに私の失敗を揶揄わせろということらしい。こうなると下手に誤魔化しても口では勝てないから、余計に傷跡をほじくられそうなので私が諦めるしかない。
 ダメ元でメールアプリをリロードし、トランシーバーのランプやスマホの着信を確認するが、まだホシは動かないらしい。仕方がないからそのままスマホでショップのページを表示し、横の入間さんに見えるよう傾けた。
「……」
「……」
 ああ、くそ。この沈黙の示すところに苦虫を噛み潰しながらそっと横目で伺えばやはり、入間さんのニヤニヤと細められた横目が私を見下ろしていた。
「使えばいいじゃないですか。……私とお揃いの赤い手袋」
「絶・対! イヤです!!」


(20231130)


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