Xのnovelmber 5. 独白


 躑躅森盧笙は、に黙っていることがある。
 盧笙は愚直なほどにまっすぐな性分を持ち、嘘をつくことが苦手な男であった。
 そのため、盧笙が“そのこと”について口にすることは無かった。口にしなければ本心を吐露することにはならず、嘘をつくことにもならないからだ。

 盧笙は知っていた。が自分のことを好きでいてくれていることを。
 もはや恒例となっている盧笙宅での飲み会の話である。しばしばどついたれ本舗3人にも加わって行われていた。潰れる順番としては、その中の多くで盧笙が1番だった。
 盧笙には好きなことがあった。自分が酩酊し眠気に抗えずテーブルや床に突っ伏した後、意識を手放すまでの時間にがわあわあと自身への好意を語るのを聞くことだ。気の置けない仲間と気持ちよく酒を飲み、憎からず思っている相手が自分への想いを熱弁するのを聞きながら眠りにつくことができるのだ。これほど幸福はことは無いだろうと盧笙は信じて疑わない。
 自分の下手な狸寝入りなど、おそらく簓と零は気付いているだろう。黙っているのは、ただ単に面白がっているだけかもしれない。それでも、盧笙にはありがたかった。
 は普段、盧笙に対してそんな甘やかな素振りを見せることない。だからきっと、盧笙が起きていることを知れば、彼女は照れてしまい二度と赤裸々に語ってはくれないだろう。それは避けたいことだった。
 チームメンバーである白膠木簓や天谷奴零であればきっと上手くやることだろう、と盧笙は内心そっと笑う。彼らはそれぞれ別ベクトルに口が回るからだ。

 盧笙は、このことを今までずっと黙っていた。ずるいことだと思いつつ、ずっと彼女の言葉を聞いていたい気持ちに抗えなかったのだ。
 そして今、珍しく真っ先に潰れかけているが、自身の膝に頭を乗せて半分落ちた意識でむにゃむにゃと鳴いている。両側ではニヤニヤと目を弧にした、の肩を突いて倒して簓とのコップに延々と日本酒を注ぎ続けた零がいる。
 盧笙は形だけ彼らを睨むように眉間に皺を寄せながらも、手ではの髪を柔らかく撫で鋤く。
 それから、大きく息を吸った。これからたくさんの話をするために。


(20231130)(修正:20240128)

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