パキキ、もはや聞き慣れた結晶音に、は重い瞼を開いた。生き返った瞬間の倦怠感にはなかなか慣れない。慣れられるようなものじゃないのかもしれないが。
「っうわ……」
「おや、起きてしまいましたか」
ぼんやりしたピントが合うや否や、不快な呻き声を上げた。その拍子に、死んだ時に口内に溜まった血だか唾液だかが仰向けの喉奥にどろっと流れ込んできて、咳き込む。しかし、の眉間を狭まらせたのはそのことではない。
……ものすごく覗き込まれている。
寝覚めの光景が上司のドアップというのは、最悪の部類に入るだろう。少なくともにとってはそうだ。ノボリはすぐそばに屈んでいるのだろうか、やたら目力の強い銀の瞳を至近距離で爛々と光らせ彼女の顔をつぶさに見つめていた。
「っげほ、なん、デ、すか……?」
「あなた、わたくしがネクロフィリアだと言ったらどうしますか」
「ネクロ……って」
「死体に性的興奮を覚える性癖錯誤のことです」
「え、うそでしょ……?」
「嘘でございます。下顎の再生の様子が興味深かったので見ておりました」
「……真顔で、それっぽい嘘つくのやめてください」
「真顔……? お茶目な雑談のつもりだったのですが……ちなみにわたくし、強いて挙げるのであれば女体の曲線美そのもの……特に腰回りから脚にかけてのラインに感動と興奮を覚えます」
「このバイト初めて以来最も実入りの無い会話したなあ……」
「さあ白雪姫、ぶつぶつ言っていないで起きてくださいまし。それとも、わたくしの口づけが必要ですか?」
「結構、です!」
は重たい腕に力を込めて上司の胸を押し返し、その気勢でなんとか脚にも力を込め起き上がろうとした。
「ちなみにクダリは首元から胸、鳩尾へのラインが」
「その情報も結構です!」
(220628)
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