今日は太い血管を撃ち抜く練習がしたい。そんなクダリの銃声から始まり、いつも通り死で終わった無慈悲な追いかけっこから、は意識を取り戻す。撃ち抜かれたうちの何箇所か派手に出血したようだ。ぐっしょりと濡れた背中が気持ち悪かった。気怠げに頭を傾けると、傍らでしゃがんだ上司がそわそわした様子で見下ろしている。
「……なんですか……?」
「ねえ、ぼくがヘマトフィリアだとしたらどうする?」
「トマト……?」
「ヘマト。血液フェチ。、赤く染まってて今とってもかわいいよ」
ハァッ、と短く、しかし力強い吐息が自分の血に濡れた頬をヒヤリと撫でる。ぞぞぞぞ、と首筋から全身へ鳥肌が伝播していく。
「ヒェッ……バイト辞めます」
「あのね、真っ赤な嘘だよ。そのまま次やったらぼくの服まで汚れちゃうから、早く拭いてね」
「……パンパン気前良く出血させたの白ボスでしょ……ていうか、その仕事ならあり得なくない絶妙なラインの嘘つくのやめてもらって良いですか?」
「ぼく普通におっぱい派。柔らかくてもハリがあってもどっちも好き」
「上司がおっぱい星人という情報、この世で最もどうでも良い情報のひとつだあ……」
「あは、大丈夫、に興味ない。職場でそういうの、ぼく良くないと思うし。というか服ズタボロになるから見慣れちゃったし」
「は? ……さ、最低! セクハラ! 最低なセクハラ!」
「面白いよね、これだけ撃たれたり刺されたり抉られたりしてるのに、気にするのはそういうところだけなの」
ウブだね、と笑う上司にありったけの殺意を込めて睨みつけながら、はなんとか身体を起こしていく。
「ちなみに、ノボリは脚派だよ」
「だから、上司のフェチとかこの世で最も知りたくない情報のひとつなんですけど!?」
(220628)
よかったなあとかあればポチッと→ ❤❤❤