「さて、ひとつ賭けをしようか」

 そう言って、ギーマさんは両手を上げた。どちらも、まったく同じ軽く握られた拳だ。

「この中に、鍵が入っている」
「なんの?」
「わたしの家の、さ」

 ……それは、つまり合鍵というやつじゃないだろうか。恋人だから、まあ、合鍵を貰うこと自体はなにもおかしいことじゃない。むしろ、ギーマさんの生活圏内に自由に足を踏み入れても良いと認めてもらえるのだと思うと嬉しさがこみ上げてくる。問題は、なんでこんな回りくどいことをしてくるのかというところ。

「……それ、普通に渡すんじゃダメなんですか?」
「普通に渡したら、面白くないだろう?」

 まったく、もう。勝負師を名乗るとはいえ、こんなところで恋人にまで勝負を仕掛けなくたって良いと思うのだけど! とはいえ、どうせギーマさんのことだから私が当たっても外れても何かしら落とし所を用意しているに違いない。ちょっとだけ悩む素振りを見せてこっちだと片手を選ぶと、すぐにその手を開いて結果発表をしてくれた。手のひらに乗る銀色を指で摘んでギーマさんは笑顔で賞賛してくれる。

「正解だ。流石、わたしの恋人なだけはある」
「……待って。こっちの手も開いて」

 その通り、伊達にギーマさんの恋人はやってない。彼の選ばれた手がこれ見よがしに賞品を私に差し出す一方で、選ばれなかった方の手がすす……とポケットに向かおうとするところを私は見逃さなかった。ぎゅっとその握り拳を掴むと、おいきみ、と宥めるようにギーマさんが微笑む。

「賭けにおいて選ばなかった方の選択肢を見る……というのはいささか野暮じゃないか?」
「私はギャンブラーでも勝負師でもないので野暮で結構です。さ、ほら、開いて開いて」

 その手を取ってしばらく見つめ合っていると、根負けしたようにギーマさんが指の力を緩めてくれた。プレゼントのリボンと包みを解くように開いていくと……そこにはさっき見たのと同じ色同じ形の豪華賞品。確かに、手を差し出された際に「どっちだ」とは聞かれなかったけれど……。

「……これ、普通に渡すんじゃダメなんですか?」
「普通に渡したら、面白くないだろう?」

 わたしの負けだよとバツが悪そうにそっぽを向く横顔がうっすらと色付いていて……彼の手とその器用な指に気まずそうに弄ばれる合鍵ごと両の手で包み、私は愛おしいその頬にそっと口付けでお礼を返した。


(220705)


よかったなあとかあればポチッと→ ❤❤❤