キャラデザモチーフネタ


「ギーマさんって、ちゃんと食べてるんですか?」

 来週の予定や、ギーマへの確認事項をあらかた終えたが、ふと問いかける。控えの書類に目を通しながら、随分急だねとギーマが肩を竦めた。だって、ともう書類から離れているの目はギーマを眺めている。ギャンブラーだという彼に合わせたカジノのように豪奢な部屋で、これまた立派な椅子に腰掛ける彼は一層細身に見えた。

「そうだな……勿論、腹には入れているさ。そうでなければ満足のいくバトルはできないからね」

 勝負事には手を抜かない。それはきちんと食事にも及ぶらしい。ギーマを担当するリーグスタッフとして、は彼の一本芯の通ったところは尊敬していた。それはそれとして、その言葉には引っ掛かりを感じるものがあった。

「なんか、含みのある言い方ですね。まさか、サプリで済ましている、とか無いですよね」
「はは、きみはなかなか勘が鋭い。少し違うが、本命とは別のもので補っているという点では、似たようなものかも知れないな」
「要領を得ません」
「安心してくれ。きちんと料理で腹は満たしているし、必要な栄養は摂っているよ。だが、わたしの気分はそれで満たされることはない。砂を食むような気分、と言ったら良いかな」
「あの、失礼なら謝りますが……ギーマさんって味覚に不具合とかおありでしたっけ……?」
「いや。味の分別はつくよ」

 甘いものは甘いと分かるし、出汁の味は出汁の味と分かる。食感にも問題は無い。しかし、ただそれだけだと言う。ある程度の嗜好はあれど、その味が美味いや不味いとはほとんど感じないらしい。何度か昼食を共にしたり、ギーマが食事を摂っている姿を見かけたことはあるが……今まで彼がそんな素振りを見せたことは無く全く気が付かなかったと、は感心してしまう。伊達にギャンブラーを名乗っては、ポーカーフェイスを身につけては居ないのだと。

「よほど何かなければ、私は好物、もっと言えば主食にあたるものを口にできないんだ」
「アレルギーですか?」
「いや、機会が無い、と言うのが正しいかもしれないな」

 そう告げ、ぱさりとサイドテーブルに書類を置き、そこにあるコーヒーカップを口に運んでゆく。あれも、苦いものという判断はつけどそれだけなのだろうか。がじっとギーマの口元を眺めていると、その口角がふと上がる。

「そう面白そうに見つめられても、わたしから素直に教えるつもりは無いぜ。どうしても知りたいのならば、自分で当ててみると良い」

 これも一種の勝負だ。四天王でギャンブラー、そして勝負師も名乗る彼は時間があるとよくこういった問いかけをする。も用事は済んでいるからと、ファイルにしまった書類を小脇に挟んで、その勝負に乗ることにした。

「珍しい食材ですか?」
「ある意味、そうだね」
「入手方法が難しいとか?」
「そうだ。真っ当には、手に入れられないだろう」
「うーん、特定の地方でしか取れないとか」
「いや、色々な都合を無視してそうしようと思えば、今すぐにでも手に入る」
「“ウミガメのスープ”みたいになってきた……」

 質問を投げかけ、はいかいいえだけの回答を貰って正解に近づいていく……というゲームだ。が次の質問をと頭を捻る様を眺めて、ギーマが楽しそうに提案を口にする。

「きみに解けるかな? そうだな、折角だ。もし当てることができれば、きみの言うことをひとつ聞いてあげよう」
「言いましたね! それでは……私でも手に入りますか」
「わたしから見たら、そうだね」
「ギーマさんから見たら……? もしかして私、持っていたりします?」
「持っている、と言っていいかも知れないな」
「え、今ですか?」
「ああ」
「即答ですか。えー……ギーマさん、もしかしてチョコレートとかお好きですか?」
「甘いとは感じるが、好きでも嫌いでも無いかな……それよりきみ、持ち歩いているのか」
「あっ」

 仕事中にこっそりおやつを摘んでいることを自白してバツの悪そうな顔をするに、それくらいで別に怒らないとギーマが次の問いを促す。はそれに乗り、恥ずかしさを誤魔化すようにぶつぶつと口を動かすが、どうにも次の疑問が出てこない。

「ギーマさんの好物かつ主食で、私でも持ってて、でも入手が難しくて……?」
「降参かな」
「うう……あ、待ってください、私が負けた場合の条件を決めていないじゃないですか」
「わたしから特に提案は無い。きみが決めてくれて構わないよ」
「そうですね、それじゃあ……ギーマさんの好きなものあげます」
「……本気か」
「え、だって、私でも今持ってるんですよね?」
「確かにそう答えたが……良いのかな、そんな安請け合いをして」
「構いませんよ! 私なら好物をしばらく食べられないなんて耐えられませんからね」
「わたしは確かに警告したぜ」

 屈託のない笑顔で頷くに対し、ギーマはふう、と呆れたような溜め息を溢す。からしてみれば、ギーマの下でしばらく働いてきてこういったちょっとしたじゃれあいからバトルまで勝負事はよくあることだったし、その際に何かを賭けることも珍しくはなかった。大抵が負ける方だったが、ギーマの要求にの尊厳を傷付けるようなものは一度も無く……だから、彼女が不明な賞品でも快諾するのは当然といえば当然のことだった。

「……それで、どうする?」

 それからは2、3の苦し紛れの質問を投げかけたが、そのどれも答えを導き出すには至らなかった。ぐうと唸り、ハンデとしてライブキャスターの辞書機能まで使用しても良いよと言ってもらって尚、辿り着けない。歯の隙間から、悔しそうな声が絞り出される。

「降参……です……!」
「では正解だが……きみ、わたしが吸血鬼だと言ったら信じるかい?」
「え?」
「正しくは末裔かな」

 何の話か分からない、の口はそう伺うままぽかんと開く。先ほどのクイズのままだよと薄く笑っているギーマの表情は先程と何も変わらない。

「答えは“血”だ」
「……ギーマさん」

 一拍置いて、の眉間に皺が寄る。じっとりとした目でギーマを見下ろせば、きみは表情が良く変わるなと楽しそうに嘯いた。

「からかいましたね! 私、真面目に心配して、真面目に考えたのに!」
「からかってなどいない。事実、今までの質問と合致するだろう?」
「確かに、ゲームとしてはそうですけど! もう、ほら、とりあえずチョコレートあげます!」
「わたしの好物をくれるんじゃなかったのか」
「ギーマさんの方から騙したので、ノーカンです!」
「ふ……あっはっは……」

 ぷりぷりと怒る様子を隠しもせず、コーヒーとどうぞ! とチョコレートをサイドテーブルに力強く置くが面白くてたまらないとギーマは高笑いをしながら、早速ひとつ拾い上げて包みを開く。

「まったく、きみは、本当に素直で面白いな。からかい甲斐があると思っているのは、認めるよ」
「それは良かったです! じゃあ用事も済みましたし、もう失礼します!」


 明日の四天王の定例忘れないでくださいねとヤケクソに声を上げて背を向けるを、打って変わって静かな声音が引き止めた。

「もし、答えの正否が本当に知りたければ……夜においで。その時に、改めて今回の賭けの報酬をいただこう」

 かり、とチョコレートを砕くその歯がやけに尖っているように見えて……いや気のせいだ、は誤魔化すように、怒り任せに電動リフトのボタンを叩いた。


(220710)


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