「そのマフラー、いつもつけてますね」
「そうだね。気になる?」
「おしゃれでいいなあって。私も、ギーマさんに倣って身につけてみようかなあ……」
「ああ……いいね、きみにもきっと似合うぜ」

 ギーマさんはそう言うとマフラーに手を掛け、しゅるりと自らほどいていく。そうして、手を出してごらん、なんて微笑んでくれたので、私は貸してくれるのかな、優しいなあなんて思いながら言われるままうきうきと手を伸ばした。

「素直で良い子だね」

 両手を揃って差し出した私に、ギーマさんはにっこりと笑いかけてくれた。トレードマークの大事なマフラーをお借りするんだし、丁寧に受け取ろうとするのは当然のことだけど、褒められて悪い気はしない。だから、私はつられて照れ笑いを返そうとした。

「……はい、どうぞ」
「あの、ギーマさん? これは……?」

 しゅるしゅる。滑らかな音が少しして、ギーマさんは私の手にマフラーを託してくれた。でも、正しく言うと手じゃなくて腕だし、託すと言うか……ぐるぐる巻きだ。私はあれよあれよと言う間に両腕を縛り上げられてしまった。生地が傷まないようにふんわりとだけど、さながら悪いことをして捕まってしまった人だ。
 綺麗な蝶の結び目をクイと引っ張られれば、私は当然それに合わせてギーマさんの方によろけてしまう。ちゃんと受け止めてくれたけれど、おまけに顎も掬われて、バッチリと目があってしまった。

「まったく、無防備な兎だな」

 心配になるよ、なんて嘯いている割に、その目はスゥと細められていく。愉快そうな……捕食者の瞳だ。
 なるほど、逮捕じゃなくて捕獲、手錠じゃなくて罠だったみたいだ。


あとがき
ギーマさんにはどれだけ乙女ゲームや少女漫画みたいな台詞を言わせても良いと思っている節がある (220925)


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