本編後の話
元生徒会の子


「久しぶりだね」
 軽く肩を叩かれてピーニャが振り返ると、そこにはひとりの女生徒が佇んでいた。
 色々な出来事を経て、現在はSTCの一部を任されているひとりであるピーニャは、そちらの運営の折を見ては遅れを取り戻すためアカデミーへと足を運ぶようにしていた。1年以上も間が空けば、先生陣だけでなく生徒にも人の入れ替わりがあったり、かつて同じクラスだった生徒も容姿が変わっているなどざらだった。そこに関してはピーニャ達元スター団幹部も改造制服のまま通っているのだから人のことは言えないが。
「どうしたの? やっぱり、私のこと、忘れちゃったかな」
「いや、覚えてるよ」
 くん。1年以上ぶりとは思えないほど呼びなれたように、音が口をついて出た。彼女は、かつて生徒会長だったピーニャの片腕をしていた生徒会のうちのひとりだ。ピーニャが失脚することで当時の生徒会の面々はいじめのターゲットから外れたことはうっすらと耳には入っていた。実際、目の前の彼女は元気そうに見えた。
 しかしそんなに対して、ピーニャは目を丸くした。
「びっくりした、キミ、1年ちょっと前と全然変わらないじゃん」
 当時、何かと厳しく自己も周囲も律しようとしていた自分に合わせて、も一糸みだれず制服を着こなし、長い髪は後ろできっちり一つにまとめられていた。それは、ピーニャが生徒会室を後にした最後の日に見た彼女の姿と何一つ変わりのないものだった。
 ピーニャの指摘に、は笑って答えた。それは、どこか嬉しそうな色が滲んでいた。
「“会長”が決めた校則だったからね。えりあしの長さは3センチまで、それ以上の長さは後ろで一つに縛ること」
「うわ、黒歴史抉ってくるね。もしかして、そのために今日その格好してきたわけ?」
「勿論違うよ。私はあの日からずっと、この格好だよ」
「その“会長”はもう居ないし、あんな校則だってもう無いのに?」
 じゃあなんで、と言いかけたピーニャの肩を、が小突いた。会長、と自分を呼んでいた頃の彼女なら絶対にしなかった行動につい口をつぐむと、はくすりと口角を上げた。今度は、挑発的な笑みだった。
「でも、今ちょっと怒ってるのは本当」
 なんでだと思う、と先ほどピーニャが聞こうとしたことをそのまま逆に問われてしまい、首を傾げる。
 ずい、と一歩踏み出し責めるように自分を見上げる彼女は、見知っていても初めて見る様子だった。彼女の求める答えに見当もつかず、今までに無い近距離にピーニャが焦りを浮かべていると、ひどいな、と彼女の唇が囁いた。
「校則を決めた日、私にこの髪型をよく似合ってるよって言ってくれたのはピーニャくんだったのに」
 言い終わるや否や、はパッと離れてくるりと回った。彼女の髪もふわりと舞って、また綺麗に一本に収まった。
「どうかな。まだ似合ってる?」
 そう言って遠い記憶と同じくはにかむ彼女に、ピーニャの答えは一つしかなかった。


(221128)


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