ブラコン半崎姉と一目惚れした穂刈


 最悪だ。未だかつてここまでうんざりすることなんてなかった。
 筋肉達磨の一応尊敬している先輩に熱心にアプローチされているという、いつも鬱陶しくべたべたしてくる実の姉の恋愛事情を見せられて気分が悪くならない弟が存在するか? 少なくともオレは今食欲が一気に失せた。勉強しながら食べようと帰り道で買ってきたカップアイスをコンビニの袋に入ったまま乱暴に冷凍庫に突っ込んだ。
 
「行こうと思っているんだが、この映画に」
「へえ、良かったね義人! これこの間観たいって言ってたやつじゃなかったっけ!」

 いや姉ちゃんだろ、誘われているのは! そう怒鳴りたい気持ちを2人分の麦茶を注ぐことに意識を向けてなんとか抑える。本当、なんでこの勉強会に荒船さんを呼ばなかったんだ。いや、呼ぼうとはした。だけど穂刈さんが「声をかけておこう、俺が」って言ったから任せたんだ。ミスった。前回初めてうちに先輩たちを呼んだ時にこの人が鞄を肩からずり落としても気付かないほど、姉ちゃんに一目惚れしてしていたことは、ドン引きしつつも覚えてはいたのに。この人はきっと荒船さんにうちの姉ちゃんを狙っていることを話しているだろうし、そうでもそうじゃなくてもあの察しの良い荒船さんは穂刈さんの邪魔をしないようにとわざと来なかったに違いない。面倒でも自分でしっかり念を押しておくべきだった。
 
「楽しみだ……今度の週末が」
「……多分、姉貴に話通じてないっすよ」

 自分の家族のことをうっとりとした顔で女として見る先輩というものがこんなにメンタルにクるとは、本当に思わなかった。

「持ってきてくれるそうだ、あとでお茶菓子を。気が効くんだな……は」

 いつの間にか名前を呼び捨てにしていることに突っ込むべきだろうか。微妙に一拍空けて照れて口にしているのがすげえいやだ。こんな穂刈さんを見たくはなかった。

「さて、始めるか。勉強を」
「お願いします。あ、数学からで良いっすか?」
「いいぞ、もちろん……義人」
「いや、もう、ぁああ……ダッッッッッッル!」

 冗談か本気か分からないいつもの真顔で俺を見つめる穂刈さんに教科書を投げつけ、俺は荒船さんへの発信ボタンを押した。


あとがき
半崎くん弟にしたい(210523)


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