プラスチック、ピンク色、ぶつかっても痛くないように5つの角が全部丸い星の形。そこからちょろりと出ている黄色い紐の先には、小さいハート。
 今日び日曜朝のヒーロードラマ、女児アニメのグッズでも無さそうなほどに可愛らしい……いや、もう言葉を選ばずに言えば”子供っぽいという概念そのもの“のような何か。

「……なにこれ?」

 渡したいものがあるから手を出してくれ、と今日会ってからずっとそわそわしていた彼氏の顔と、言われるがまま差し出した掌の上のその玩具のような何か。その間を私の目はたっぷり5往復はしてしまった。

「防犯ブザーだ」
「……私、鋼くんと同じ歳だよ?」

 首を傾げて見せるも、鋼くんは眉間に皺を寄せてまるで苦渋の決断とでもいうような顔でとんちんかんなことを言い始めた。

「本当は、オレがいつでも守っていたいんだけど」
「……」

 きゅん、とするべきところなんだと思う。でも、私の手にあるお菓子のような……という形容をするには大分ちゃっちい、というかずばり小学生低学年の女の子が持っているようなドピンクの塊が視界をチラついて集中できない。かわいいはかわいいが、これを18歳が持つのは大分キツくはないだろうか。鋼くんは、これをスーパーかどこかで選んで、レジに持って行ってお会計してもらったというのか……。

「ああ、うん……」

 結局私は500円の値札のついたそれをすぐ鞄に入れて……そしてすぐ頭からはぽろりと落っことしてしまった。

 ***



 シフトも終えたしさあ帰るかと廊下を進んでいると、耳馴染みの良い恋人の声と共に腕を掴まれ引き止められる。突然のことに目を丸くして振り返ると、鋼くんが珍しく不機嫌そうな顔で睨みつけていて、またびっくりしてしまった。

「帰るのか」
「あ、うん」

 鋼くんは戦闘さえしていなければ基本的にほんわかとした雰囲気を纏っているから気にならないけれど、実は目つきは結構切長でちょっとこわい側に入る。でも幸いどうもその目線の先は私を向いてはいなかったので、折角珍しく本部で会えたし一緒に帰るかどうか尋ねてみたけれど、返ってきたのは全然違うことだった。

「……防犯ブザー、鞄についてない」
「……………………あっ」

 たっぷり時間をいただいて、やっっっと、あのまあるいおほしさまを思い出した。そういえばそんなものもあったな……と冷や汗が滲む。やはり鞄につけるには恥ずかしくて、なんとなくそのまんま存在がすっぽ抜けてしまっていたのだ。曲がりなりにも彼氏からのプレゼントだというのに。

「わかった」

 鋼くんの口から出た静かな呟きが、ごめんとかついうっかりとか慌てる私の見苦しい弁解を制した。

「やっぱり、のことはオレがずっと、いつでも守るよ」

 恐らくここもきゅん、とするべきところなんだと思う。でも私は、私の目を、優しく、まっすぐ、しかしどこかうっそりと見つめてくる鋼くんの黒い瞳に……何か、決定的な間違いを犯したような気がして……一筋、背中に冷たいものが走るのを感じた。


(220614)


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