「おまえ、また勝手にここでログ観てんのか」
「勝手じゃないよ、加賀美ちゃんに許可もらったもん」
荒船らがシフトの巡回を終えて作戦室に戻ると、そこには同じ学校のボーダー隊員であるがくつろいでいた。特になんの約束もしていなかったが、は我が物顔で腰掛け、今日は荒船の私物であるプロジェクターのリモコンを手に弄んでいる。
「しょうがないじゃん、チーム組んでないと作戦室無いんだから」
は室内に入ってくる荒船たちに目を向けず、ただ目の前のスクリーンを凝視してふてぶてしく口答えをよこしてくる。
「良いじゃんよー、どうせ映画くらいにしか使ってないんだしさー」
いつも特定のチーム……もはや隠すこともなく鈴鳴第一、つまりの大好きな村上鋼のいるB級ランク戦があると、彼女は必ずと言って良いほどわざわざ荒船隊作戦室でそのログ映像を堪能していた。
「いや仕方なくも良くもねえだろ。大体、資料室に再生機器あるだろうが」
「荒船、分かって言ってるでしょ、それじゃ大きい画面で、村上くんを落ち着いて観られないじゃん!」
馬耳東風とはこのことかと最近は諦め気味の荒船がわざとらしく大きいため息をつく一方、穂刈はノリが良いのかに話題を振った。
「それでどこがイチオシなんだ、おまえ的に今回の村上は」
「いやー、やっぱ……“全部”かな……」
村上の戦闘する場面を何度も巻き戻しながら、がしみじみと語り出す。こうなると長い。前にうっかり社交辞令で聞いてしまった半崎など、作戦室にの姿を見るとすぐに踵を返すようになってしまった。やれ体捌きが、やれここの目付きが、やれここで護りきるのが、あっ今の動き見た? ……などとはしゃいで巻き戻して、また語り……荒船がもう今日の報告書の半分を埋めきっているのを横目に、穂刈はなにやら楽しそうにひとつひとつ相槌を打ち、村上の一挙一動に解説を入れる勢いのに話を促していった。
終いにはもう同じ言葉しか返していない穂刈に気付かず、ひとしきり語り終えたはうっとりと溜息を吐いた。
「はーやっぱ憧れるなあ……もういっそ私もレイガスト練習しようかな……」
「もし使うなら教えるけど」
「本当? ありがと……う!!!!????」
すぐ後ろから降ってくる嬉しそうに弾んだ声につられて、は振り返った。おでこを出すように逆立てられている緑がかった髪の毛。眠たげにも見える落ち着いた黒い目。穏やかな笑みを受けべ、嬉しそうに提案したのは……まさしく“村上鋼”その本人だった。の動きが、全てスローモーションになっていき、最後にはプロジェクターのリモコンを取り落としてしまった。
「来週は水曜日に本部に寄る予定だから、声をかけてくれれば……」
「…………む、無理!!!」
ギャアア、と意中の相手の前で野太く叫ばなかっただけでも褒められそうなほど迫真の形相で、は作戦室を飛び出していく。
「……また行ってしまったな、やはり鞄置きっぱなしで」
「で、どうすんだ、鋼」
「ああ。待つよ、ここで」
「……おまえ、楽しそうだな」
にこにこと依然嬉しそうな雰囲気のまま、どこ吹く風の穂刈と並んで自身のログを振り返る村上に嘆息しながら、荒船は報告書の送信ボタンを押した。
(211218)
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